▼表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍の内視鏡診断・治療
近年、十二指腸の非乳頭部領域に腺腫や早期癌を指摘される機会が増えています。胃や大腸と比べると内視鏡診断や治療指針が確立されておらず、課題が残る領域です。
内視鏡診断において、画像強調観察法の一つであるLinked color imaging(富士フィルム社)を用いて、病変拾い上げ診断能が向上するか研究を行っています。このモードでの観察が有用であることが確認されれば、健診内視鏡などでも十二指腸腫瘍を発見、診断できることが期待されます。
内視鏡治療法は、病変サイズによって方針が異なってきます。20mm以下でスネアとよばれるワイヤー製の輪っかで病変をしっかり把持できると判断されれば、病変下部に局注したのちスネアで把持して切除する内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection: EMR)が選択されることが多いです。一方20mm以上あるいは15mm程度でもスネアでの把持が困難と予想されれば、内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection: ESD)が選択されることが多くなります。いずれの治療も胃や大腸で一般的な治療法ですが、十二指腸の解剖学的特性(管腔が狭い、屈曲が強い、壁が薄い、胆汁膵液の曝露がある)から治療難易度が高いとされています。
近年、EMRの派生法として浸水下EMRが考案され、広まっています。これは十二指腸の内腔を空気ではなく水で満たし、水中で浮遊した病変を局注することなくスネアで把持し切除する方法です。しかしながら、浸水下EMRが従来のEMRより明らかに優れているというデータは不足しています。われわれはこれら従来型EMRと浸水下EMRを組み合わせたさらなる派生法である『マーキング・局注併用浸水下EMR』を考案、取り組んでおり、この新規治療法と従来型EMRの前向きランダム比較試験を開始しています。新規治療法の有用性が証明されれば、十二指腸腫瘍に対する内視鏡治療法の確立へ一歩近づくことが期待されます。
▼細胞シートを用いた十二指腸ESD遅発性穿孔予防法の確立(消化器再生医療学講座との共同研究)
EMRで対応困難な十二指腸腫瘍に対するESDでは、術中・遅発性穿孔率の高さが問題となっています。特に遅発性穿孔は後腹膜膿瘍や腹膜炎に至り、複数回の手術や処置を要することがあります。近年では、腹腔鏡と内視鏡合同での手術が一般的になりつつあり、遅発性穿孔の予防策として腹腔鏡での粘膜欠損部縫縮などが提唱されていますが、確立された方法はありません。
われわれは消化器再生医療学講座 金高教授らと共同で粘膜欠損部に自己筋芽細胞シートを移植して、遅発性穿孔を予防する研究を行っています。すでに大動物実験など非臨床proof of conceptは確認できており、2021年度より「自己筋芽細胞シートを用いた十二指腸ESDの遅発性穿孔予防」の医師主導治験を開始しています。この再生医療を応用した技術の有用性が証明されれば、十二指腸腫瘍に対する内視鏡治療の安全性が高まることが期待されます。
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