X線とラジオアイソトープの違い

X線とラジオアイソトープ、どちらも医療の現場ではよく使用されるものですが、この両者の意味合いは全く異なっています。


(1)基本的性質の違い

  • X線
    • X線は放射線の一種です。 放射線には他にα線、β線、γ線、陽子線、中性子線など多種多様な種類があります。
    • X線の本体は電磁波です。目に見えることはありません。
    • 大学病院で使用されているX線は、すべてX線発生装置により人工的に作りだされたものです。 発生装置の電源を切れば、X線も消えます。
  • ラジオアイソトープ
    • ラジオアイソトープの和訳は「放射性同位元素」、元素、すなわち化学物質です。 固体や液体として目で見ることが出来ます。
    • 「放射性同位元素」が一般の元素と決定的に異なる点は、自然に放射線を出すということです。 この放射線にはα線、β線、γ線があります。

このように、X線とは胸部X線撮影装置などのX線発生装置が作る放射線そのもののこと、 それに対してラジオアイソトープとは放射性医薬品などの化学物質のことです。


ラジオアイソトープが出す放射線の一種、γ線の本体は電磁波です。 つまりγ線とX線は同じ種類の放射線なのです。 これが、X線とラジオアイソトープの唯一の共通点です。


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(2)医療応用の違い

医療の場での応用法も異なっています。長崎大学ではX線は主として診断目的に使われています。 X線撮影、透視、造影、CTなど、診断には欠かせない手法です。それに対して、ラジオアイソトープには幅広い用途があります。

  • 診断
    • 患者さんにアイソトープ投与し、体内の組織に局在したアイソトープから放出される微量の放射線を 像として検出することにより、組織の機能変化を見いだすラジオシンチグラム。
    • 患者さんから採取した血液等、体外生体試料中の極微量な物質を鋭敏に検出するラジオイムノアッセイ。 中央検査部に送るRI検査の多くはこの手法に基づいています。
  • 治療
    • コバルト60などのラジオアイソトープを密封した容器に封じ込め(密封線源)、 ラジオアイソトープから出るγ線を癌組織に選択的に照射する方法は、基本的な放射線治療法の一つです。
    • 容器に封じ込めていないラジオアイソトープ(非密封線源)を医薬品として患者さんに投与し、 体内の特異的組織に集積したアイソトープから出る放射線を体内で癌組織に照射する方法も、 長崎大学では定常的に用いられています。例えば、ヨウ素(I)という元素には甲状腺に集積する性質があるので、 ヨウ素の放射性同位元素である(131I)を甲状腺癌の患者さんに投与すると、 甲状腺に集まった131Iが出すβ線が癌組織に照射されることになります。 これがアイソトープ病棟で行われている治療の原理です。

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(3)放射線安全管理上の違い

基本的性質で述べたように、X線は機械が発生するものであるのに対して、 ラジオアイソトープはそれ自身が放射線を出す化学物質です。 したがって放射線から身を守る方法も異なっています。


・X線からの防護

  • X線はそれ自身が放射線なので、X線を浴びないようにすることが基本です。
  • X線発生装置からの距離を十分にとり、またX線から遮蔽をしてやれば、完全に被ばくから身を守ることが出来ます。
  • 発生装置の電源を切ってやれば、もはや放射線は存在しません。

・ラジオアイソトープからの防護

ラジオアイソトープから出る放射線による被ばくには、複数の経路が考えられます。 具体的に放射性医薬品(非密封線源)投与を受けた患者さんのケアでは、次の3つが考えられます。


  1. 放射線医薬品から出る放射線
    • 遮蔽すれば被ばくしません。
    • 医薬品に触れなければならない場合は、手袋をして短時間のうちに扱うことにより被ばくを防ぐことが出来ます。
  2. 放射性医薬品を投与された患者さんから出る放射線
    • 遮蔽すれば被ばくしません。
  3. 放射性医薬品を投与された患者さんの汗、呼気、吐瀉物、排泄物中に含まれるラジオアイソトープから出る放射線
    • 患者さんに触れている衣服やベッドカバーなどは、投与初期ではすべて放射能汚染しています。 吐瀉物や排泄物の場合も同様です。手袋をして短時間のうちに扱うことにより被ばくを防ぐことが出来ます。
    • 呼気に含まれるラジオアイソトープは室内全体に広がります。汗や患者さんの接触物に含まれるラジオアイソトープの一部も室内中の空気に自然拡散します。 したがって、必ず室内換気を行ない、室内放射能濃度を安全値に保つことが必要です。

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アイソトープ治療

ここでは131Iの経口投与による甲状腺癌の内照射療法について説明します。


(1)ヨウ化ナトリウムカプセル

ヨウ化ナトリウムはカプセル剤になっており、通常は2カプセル、総放射能3.7GBq(ギガベクレル)が投与されます。 これは一般のシンチグラム検査の際に投与されるアイソトープ量の約100倍に当たります。 しかし、γ線を遮蔽するため鉛の容器に入れられているので、容器の持ち運びの際に被ばくすることはありません。




(2)壊変の原理

131Iは投与後すみやかに甲状腺に蓄積し、β線およびγ線を放出しながら 131mXeという別の原子核に変化します。 ここで放出されるβ線の飛程は2mmと短く、周囲の癌組織に損傷を与えます。 これを利用するわけです。この壊変の半減期は8.02日、すなわち8日たてば放射能は半分に減っていることになります。 ついで131mXeは弱いγ線を放出し、11.84日の半減期で放射能を持たない安定同位体である131Xeに変化します。




(3)ヨウ化ナトリウムの吸収・分布・代謝・排泄

すべての薬物は吸収・分布・代謝・排泄の運命を辿ります。
吸収されたヨウ化ナトリウムのうち、90%は8.4時間以内に尿から排泄され、残り10%は甲状腺に蓄積するものと考えられています。 蓄積したヨウ化ナトリウムはその後ゆっくりと代謝を受け、排泄されていきます。 この代謝・排泄に要する半減期を生物学的半減期と呼び、ヨウ化ナトリウムの生物学的半減期は138日です。
一方、(2)で述べたような放射壊変に伴う半減期は物理的半減期と呼んで区別されます。


吸収したうち90%が8.4時間以内に排泄されること、物理的半減期が8.05日であること、を合わせ考えると、 投与後、早い期間(1-2日)のケアにおける放射線防護が重要です。


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アイソトープ病棟

(1)管理区域への入室

放射性医薬品を貯蔵、使用、廃棄する場所は管理区域として一般の場所とは区別されています。 下図は、附属病院アイソトープ病棟放射線管理室の管理区域監視盤で、黄色く塗られた部屋が管理区域を示します。 非密封病室、小線源治療室、シンチカメラ室などがあります。



非管理区域から管理区域に入室する際には、次のルールを守らなければいけません。


  1. 入退出記録簿に入室者名および入室時刻を記帳する。
  2. 専用の黄衣を着用する。
  3. 専用の黄色スリッパを履く。
  4. 個人線量計(フィルムバッジ、ガラスバッジなど)を黄衣腹部に着用する。
  5. 手袋を着用する。




(2)管理区域内

管理区域に入ると、下図のように汚染検査用のサーベイメータ、キムワイプ、ポリエチレン手袋が備えられています。



病室では、アイソトープを投与された患者さんから直接受ける放射線(γ線)の他に、 患者さんの呼気に起因する室内空気の汚染、および病衣等の接触物の汚染に注意しなくてはなりません。 すでに述べたように、投与後から1-2日間は特に要注意です。


患者さんからの放射線は、必要に応じて遮蔽板を介して患者さんをケアすることにより防護することが出来ます。 また室内空気は、オールフレッシュな排気設備が作動していますので、常に安全なレベルに保たれています。 接触物は十分長い期間病室内で放置して、放射線が減衰してから放射性廃棄物として保管廃棄します。



病室における遮蔽板の一例です。





(3)管理区域からの退室

管理区域から退室する際には、次のルールを守らなくてはいけません。


  1. 手を洗う。
  2. ハンドフットクロズモニタで、手、足、および黄衣の汚染検査を行う。
  3. 入退室記録簿に、退室時刻を記帳する。




(4)緊急時の処置

アイソトープ病棟における放射線管理上の緊急時としては、放射性医薬品の紛失、 患者さんからの吐瀉物や排泄物による汚染などが考えられます。


基本的には「患者さんのケア」と「連絡」を優先して行ないます。 「連絡」に関しては、アイソトープ病棟担当時に緊急連絡網を熟知してください。


それらに加えて、放射線安全管理上の処置も必要です。すなわち、 「汚染検査」による汚染物および汚染箇所の特定を行ない、次いで汚染箇所を立入禁止にするなどして 「汚染拡大の防止」につとめます。その後、除染作業を行います。 これらの一連の作業は放射線取扱主任者の指導のもとに行なうことが好ましいので、 迅速な「連絡」が、安全管理の第一歩ということになります。




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last update:2013/9/9