長崎大学グローバルCOEプログラム「放射線健康リスク制御国際戦略拠点」
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第53回アメリカ保健物理学会年次総会参加報告書

先導生命科学研究支援センター・放射線生物防護 松田尚樹、三浦美和
医歯薬学総合研究科・原研・放射線応答解析 森田直子


重工業都市からIT産業・学園都市への再生を果たし、今や全米でも治安の良いことで知られるピッツバーグ市ダウンタウンのコンベンションセンターで、第53回アメリカ保健物理学会年次大会が4日間の会期でのべ約2500人の参加者を得て開催された。American Conference of Radiological Safetyとのサブタイトルも付されていることからもわかるように、本学会は線量測定、生物影響評価、医療被ばくからリスクコミュニケーション、緊急時対策まで放射線安全管理の実務一般を幅広くカバーしている。今回の参加では、長崎大学における放射線リスク認知調査の結果と、ホールボディカウンタを用いた大学における放射線安全管理についての2演題を発表した。日本人の参加はほとんど見られず、日本の発表も我々の2演題と、アロカ(株)による1演題のみであった。これは10月に第12回国際放射線防護学会(IRPA12、アルゼンチン)の開催を控えていることのみならず、アメリカにおける放射線防護の特殊性と無縁ではないと思われる。すなわち、核保有国であり、しかも原子力ルネサンスを推進しようとしているアメリカで、平和な日本では考えにくいレベルでの「放射線リスク管理」が粛々と進められていることを今回思い知ることとなった。

放射性物質を含むいわゆるDirty bomb攻撃を受けた場合の緊急対応には、正確な環境モニタリングと気象データ、地形データに基づくHazard assessmentとともに、その情報の一般市民への迅速な開示が必要とされる。その任務を地域レベルで果たせるようにするため、オンラインで測定データを取り込み、特定のエリアにおけるHazard assessmentを行うためのソフトウエアおよび計算コードが多く開発され、配布され、使用訓練が行われている。極端な例を挙げれば、市内のどこかでDirty bombを含むテロ攻撃が生じた場合、町内会やPTAの会長が危険地域を推定して適切に市民、学童を誘導することができるようにする、というイメージである。放射性物質の輸送時の事故が生じた場合や、小規模の原子力プラント事故が起こった場合に置き換えて考えれば、このようなシステムは決して日本と無縁なものではないだろう。一方、少なくとも日本ではあり得ない緊急事態として、核兵器に関わる事故が挙げられる。アメリカでは1950年から1980年の間に、プルトニウムの放出が起こったものを含め32回もの核兵器関連事故を経験しているという。さらに米軍では戦闘中の兵士は、爆風、熱、衝撃といった物理的なダメージに加え、放射線被ばくも受けることを想定して作戦が策定されており、放射線の人体影響評価は、ここでは兵士がどの程度アクティビティを失うか、という形で応用される。これらの報告では確定的影響の早期評価とその防護が主たる対策で、晩発効果、確率的影響などは蚊帳の外である。

その反面、医療被ばくの増加に対して本学会は極めてセンシティブな反応を示しており、ここでは確率的影響の制限がその主役となる。現在、review processにあるアメリカ放射線防護測定審議会(NCRP)による21年ぶりの国民線量調査によれば、医療行為による被ばく線量が3.6mSv/yearから6.4mSv/yearにほぼ倍増し、増加分の50%以上にCT検査の増加が寄与している。その結果、国民線量における自然放射線の割合(48.8%)とほぼ同程度(47.8%)を医療被ばくが占めるにいたっている。会期初日のPlenary sessionでは半日を費やして医療被ばく、特にCTによる被ばくの現状とその被ばく線量低減に向けての動きについて、Brenner(コロンビア大)ら6名による報告と討議が行われた。

リスクコミュニケーション、クライシス時のコミュニケーションに関しても多くの発表が見られ、著名なスリーマイル島(TMI)原子力発電所事故など過去の事例から学び、緊急時の報道機関や市民への対応を迅速、正確に行うためのマニュアル作成が政府主導で行われている。市民のリスク認知についても、リスク認知の社会心理学的分析で著名なSlovicの流れをくむBecker(アラバマ大)による発表は、内容的にはよく知られたものではあったものの、多くの参加者の興味を得て質問の絶えることがない状況であった。そのような中で、Ansani(予防医学センター)による、放射線専門家を対象にしたリスク認知調査は興味深い結果を示していた。すなわち、保険物理士、放射線生物学者、放射線安全協会職員等に対して、「自分、あるいは子供にとって「安全(safe)」と見なすことが出来る線量はどの程度か?」といったアンケートを行ったところ、大人に対しては10mSv (26%)が最も多く、次いで50mSv (23%)、子供に対しては1mSvと5mSv がそれぞれ21%であった。もっとも、回答の数値のバラツキは約3オーダーの範囲を示し、放射線専門家という同様のフィールド間でさえも、「安全」とみなす線量には明らかに大きな個人差があることが示された。

最後に、研究教育機関における被ばく事故については、日本では管理区域内より持ち出した125Iを用いた故意による内部被ばく事故(宮崎大、放射線障害防止法等違反で懲役3年、執行猶予4年、6月17日判決)が記憶に新しいところであるが、アメリカにおいても同様の事件が1978年から1995年の間だけでも10件発生しており、その中でも、MITで1995年に起こった32P摂取による内部被ばく事故について、その責任担当者からの事例報告が行われた。この事故についてはアメリカ核規制委員会(NRC)による詳細なレポート(NUREG-1535)も公表されており、推定摂取数量は19-29MBqで、約50mSvの被ばくと評価されている。1996年以降の事件についての総括的な報告は示されなかったが、1998年、ブラウン大において、加害者と被害者の関係、犯行に至った経緯、さらに被ばく線量が宮崎の事件と酷似した事件が発生している。この事件については、NRCによってはPreliminary notification of event or unusual occurrenceとして記録(PNO-1-98-052)が公表されているのみである。
 以上、放射線安全に関わるCHP(認定保健物理士)、MD、PhDを中心とした研究者による報告は、日本の保健物理学会や放射線安全管理学会における発表と比較して多岐にわたり、さらに当初述べたアメリカの特殊性もあり、放射線リスク管理の現場を預かる身として極めて有意義な参加であった。なお、本グローバルCOEプログラムからの発表者および発表演題は次の通りである。

Miura M, Morita N, Takao H, Yoshida M, Matsuda N
  Analysis of Radiation Risk Perception by University Faculties and Students.
Morita N, Takamura N, Yamashita S, Shimasaki T, Yoshida M, Matsuda N
  Use of a Whole Body Counter in Radiation Risk Management for University Faculties and Students.

 
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