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『次世代型のライフサイエンス系放射線施設を考える - 分子イメージングを例として』


私がラジオアイソトープ(RI)を初めて使用したのは、金沢大学薬学部の学生だった1970年代後半のことで、H-3やC-14をトレーサーとして学生実習や卒業研究で利用した。DNA合成にせよタンパク合成にせよこの当時はRIを用いた手法以外に鋭敏に定量性よく検出できる方法はなく、1980年代に入ってRI標識ヌクレオシドを用いた核酸ハイブリダイゼーションとシークエンスが広まるにつれ、ライフサイエンス系放射線施設は花よ夢よの時代に入った。1990年台前半、私が留学していた米国バッファローの研究室では、背後のベンチでノーザンブロットと免疫沈降とシークエンスを同時に行いながら弁当を食べていた、そんな時代だった。1997年に長崎大学アイソトープ総合センターに赴任し、それまでの悪質なユーザーから一転して管理をしなければならないことになった。汚染はつきものでそのために放射線管理区域があるわけだが、それにしても利用者の混み具合と汚染の多さには参った記憶がある。しかし残念ながらRI人気のピークはその頃すでに過ぎており、2014年現在で、往年の4番打者P-32の国内配給量は当時の1/10まで激減、H-3、C-14、S-35、I-125、Cr-51など私もかつてお世話になった核種いずれも似たようなもので、ライフサイエンス系におけるRIをトレーサーとした汎用的な手法は、蛍光標識等の他の有用な手法に完全に置き換えられたといっていい。となると、作法が面倒、汚染したら叱られる、そして高価、などの欠点ばかりが目について、利用者が離れるのは自明の理である。そして今や、若いころにラジオアイソトープを使ったことのある師匠からその弟子だけに実験手技が伝承される状況にある。


では将来はどうか。さらに利用機会は減り、廃止、統合化は現実のものとして、アウトソーシングもこれからあり得るだろう。施設をいかに充実させても、テーマがなければ利用が増えることはない。そんな時代を反映してか、次世代型放射線施設とも言える最近の放射線施設改築事例では、大学の持つ研究の強みを生かす施設、突然沸いてくる利用希望に沿った模様替えができる実験室、地域社会貢献にも使える施設など、各大学の状況に合わせたユニークな工夫が見られている。ここ5年程度の間に、特に全国の国立大学アイソトープセンター群で増加傾向にあるのが、RIを用いた分子イメージングのPositron Emission Tomography (PET)、Single Photon Emission Computed Tomography (SPECT)である。専任教員の専門分野が核医学であるセンターはもとより、まったくの分子イメージング素人のセンターが、ライフサイエンス系におけるRI復権をかけて、研究支援のための共同利用機器として、小動物用のPETやSPECTを導入する例も現れてきた。長崎大学もその一つで、PET/SPECT/CTの複合機を2012年に導入し、2013年から本格的に運用を開始している。長崎大学では熱帯医学研究所を中心として先導的な感染症研究が進められているため、機器はBSL-3対応撮像室に設置し、国内で唯一、感染動物の分子イメージングも可能としている。


そもそもPETもSPECTも、臨床診断法としては技術的に確立されたものであるが、ヒトよりも微細な画像の要求される小動物への応用の歴史は長くない。撮像、画像再構成、解析能力の向上に伴い、2000年頃から小動物分子イメージングが研究手法の一つとして注目されるようになり、現在では生きたまま継続的、反復的に生体機能を可視化・定量化できるというその特徴を生かした病態診断や薬効判定等、プレクリニカルスタディにおける強力な武器となりつつある。とはいえ、撮像から画像再構成までの一連の操作には、共焦点レーザー顕微鏡やマイクロCTといった従来の画像解析技術よりも極めて高い専門性が要求されるため、単なる機器の設置だけでは利用者が増加することはなく、新たな分子イメージング研究サポート体制が必要不可欠である。導入後の研究サポート体制、機器維持体制(温湿度、保守契約)など、東奔西走しながら整備してきた感があるが、最近になってようやく研究支援→研究成果→研究費→利用料金→研究支援、の理想的サイクルらしきものがもしかすると可能かもしれない、との一片の希望が見られてきたような気になっている。RIの使用数量と利用料金収入はとりあえず緩やかなV字回復にある。何よりも利用者による差別性の高い研究成果は聞いていて楽しい。これがいつまで続くのか、本当に安定化するのか、まったく先は見えないが、少なくとも私にとって、この小動物分子イメージングが研究者、施設運営者のどちらの視点からも面白い技術であることは間違いない。

松田 尚樹


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last update:2016/8/25