はじめに

yamashita

 

 原爆被爆者の健康調査は、本研究施設の使命であり、原研リスクの客員部門でも第一に被爆地長崎の医学研究面での役割分担を目指しています。原爆被爆者の高齢化問題や、国内被ばく者に留まらず、世界の各地に放射線障害に苦しむ人々がいます。核兵器開発競争や放射能漏れ事故など、とりわけ旧ソ連圏内では経済機構の破綻、人権、人道問題など医療、医学の抜本的なインフラが崩壊しています。さらに遠隔過疎地な放射能汚染地域と、そこに今なお居住つづける住民達の長年にわたる放射線障害の実態は不明です。すなわち、一般住民が被災した放射性降下物、とりわけ放射性ヨ-ド被ばくの問題は、チェルノブイリやセミパラチンスクでは大きな健康障害を来たしている可能性があります。そこで旧ソ連圏内から毎年1名の客員教授を招聘し、共同研究を推進しています。1997年度はベラル-シ共和国ミンスク医科大学生理学教室から、セルゲイ・ベルギン先生を迎え、放射線の発育脳機能に及ぼす動物実験を行い、1998年度にはウクライナ共和国キエフ内分泌研究所からユ-リ-・サウチン先生を迎え、放射線の細胞膜からの情報伝達系と生物反応の特徴を研究して頂き、それぞれ成果を公表してきました。1999年度はロシア連邦オムニンスク放射線医学研究所から甲状腺超音波診断学の専門家ウラジミ-ル・パ-シン先生が来日し、画像解析などコンピュ-タ-を用いたデ-タ解析で活躍しています。本部門は客員教授1名と助教1名の仮住まいではありますが、その活動は幅広く、すでにチェルノブイリやセミパラチンスクの分子疫学調査、遠隔医療診断支援以外にも、WHOとの共同プロジェクトや、長崎・ヒバクシャ医療国際協力会(NASHIM)の各種事業の中核的な役割を担っています。また原爆被爆者の保存生体資料の活用などから、貴重なサンプルの散逸を防ぎ、有効な研究体制を構築する為に、国際的な遺伝子バンクの創設にも協力しています。その他、遺伝子診断の役割を担い、特に先天性骨髄性ポルフィリン症患者の臨床・基礎医学研究の日本センタ-となっています。以上の国際被ばく者医療協力、医学研究と平和推進活動は「人道と科学」の実践として、1999年10月12日長崎大学が世界アルバ-ト・シュヴァイツア-・センタ-日本代表に指定されるという栄誉に浴しました。過去の悲惨な核兵器の被害から立ち直り、人類が放射線と共存していく為には、大量放射能被ばく問題やその急性、慢性障害の健康問題だけではなく、太古の昔から共存してきた放射線の生理的作用という観点から研究することも大切です。そこで、低線量放射線被ばく問題も原研医療(旧 原研細胞)と共同で研究を続けています。 このように、小さな教室ですが、大きな仕事ができる恵まれた環境下にあり、国内外の関連機関や教室と幅広く共同プロジェクトを展開しています。

山下 俊一