出版:『緊急被ばく医療の準備と対応』CD-ROM日本語翻訳版

 
『緊急被ばく医療の準備と対応』
CD-ROM日本語翻訳版

目次


『緊急被ばく医療の準備と対応』CD-ROM日本語訳の完成

20世紀は戦争の世紀とも呼ばれ、東西冷戦構造の崩壊に引き続き文明の衝突などグローバリゼーションが進展していますが、魔法の3神器が生まれた時代でもあります。原子の火(エネルギー)、コンピューター(人工頭脳)、そしてバイオテクノロジーによる生命の操作です。21世紀も科学技術の革新的な進歩が期待されると同時に、原子力の時代が続きます。更に医療・医学の分野以外にも放射線利用促進の機会が増す中で、一般大衆の過剰な放射線被ばくの危険が常に存在します。この放射線に関する健康影響問題やリスク評価の適切さ、更に被ばくの実態を正しく理解することは、事故防止策や被ばく低減策の構築から緊急時対応を医療面から準備することにつながり極めて重要なことです。

このたび、2002年にWHOとIAEAが共同で作成した放射線被ばくに関する教育研修用英語スライドのノート部分の英訳が完成しました。原文の執筆に関しましては国際的に著名な緊急被ばく医療の専門家らが当たり、当時IAEAに所属していたTurai博士とWHO本部のSouchkevitch博士が総合的な取り纏めを行ないその責任を果たしています。このお二人に改めて感謝申し上げます。2003年夏長崎において、COEプログラムの一環としてTurai博士に緊急被ばく医療研修コースを開講していただいたのが、この翻訳事業の始まりでした。

平成15年度事業として国内の関係機関にはすでにCD-ROM版での日本語訳を無料配布していますが、平成16年度事業としてここに新たにホームページ上に公開することで、多くの医療関係者とも関連情報を共有し、稀な事象ではあるものの緊急被ばく医療に関する正しい知識と対応について一緒に考えて行きたいと思います。本教育コースは専門の講師が各国の医療関係者に対して講義するものであり、標準化された緊急被ばく医療についての基礎知識と実際の救急医療や、公衆対策の標準的な考え方を伝えるために作成されたものです。講義スライドの英語の文章に対比して日本語訳をつけたものですが、ビデオによる講義内容などは含まれていません。

翻訳しました教育研修内容は、第一日目のコースとして放射線事故の用語や統計、線量測定やその単位など初歩的な知識の講義から始まり、第二日目放射線の人体影響全般、第三日目放射線障害の種類から救急医療の実際的な対応、第四日目世界の被ばく事故例から学びながらその原因と医療対応を考え、第五日目は安定ヨウ素剤投与など公衆への放射線防護対策と国際協力について、というふうに大きく5つのコースに分類されています。

WHO緊急被ばく医療ネットワーク(REMPAN: Radiation Emergency Preparedness and Network)はWHOジュネーブ本部に事務局があり、13のWHO Collaborating Centerと15のLiaison Instituteから構成されていますが、長崎大学もその中の一つのセンターとしてREMPAN活動に協力しているところです。WHO-REMPANの活動としましては、保健医療分野における放射線安全防護の立場から、急性期対応や晩発性放射線障害対策についての包括的なガイドライン作成が継続されるものと期待されています。

最後に、本翻訳はWHOとIAEAの許可を得て長崎大学21世紀COEプログラム『放射線医療科学国際コンソーシアム』の有志が行ないましたが、翻訳の正確さ、質、信頼性についてはすべて翻訳者自身の責任であり、WHOとIAEAは何ら責任を負うものではありません。現在これら内容の見直しがIAEAとWHOの共同作業として行われ、近い将来改訂版CD-ROMが完成の予定です。(監訳者:山下俊一)