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高村昇教授らによる福島第一原発事故後の現地での取り組みが米国Science誌に掲載されました。


Science 6 May 2016
Vol.352, No.6286


 福島第一原子力発電所事故後の現地での取り組みに関する3篇のLetterが、世界的に権威のある米国の学術雑誌『Science』の5月6日号に掲載されました。
 国際保健医療福祉学研究分野(原研国際)の高村昇教授や福島県立医科大学の宮﨑真助手、緑川早苗准教授らが同誌に投稿したもので、長崎大学からは福島県川内村での復興支援について、福島県立医大からは、福島県が進める「県民健康調査」と「リスクコミュニケーション」に関する2本のLetterが投稿されました。福島県内では、原発事故後5年経過した今も依然として、放射性物質や放射線に対して過度な恐怖心を抱える住民が数多く存在しており、正しい知識に基づいた住民対応が今後も求められています。
  福島第一原子力発電所事故から5年が経過しました。福島では避難区域における復興に向けた作業が進められており、川内村をはじめとするいくつかの町村では除染、インフラの整備が完了して避難指示が解除され、住民の帰還が進んでいます。一方で、福島における住民の放射線被ばくに対する不安は、事故当初に比べるとかなり軽減されてきていますが、長期にわたる避難に伴う不信感からまだ完全には払拭されていないのが現状です。福島県は県民の健康を長期にわたって見守り、健康に対する不安を解消することを目的として「県民健康調査」を開始し、事故当時0-18歳だった住民約30万人を対象に甲状腺超音波検査を行っていますが、一巡目の検査で110名あまりの住民が甲状腺がん、あるいは甲状腺がん疑いと診断され、県民に波紋を広げています。本来、このような検査を行う場合には、放射線被ばくと疾患との関連性、すなわち因果関係についての丁寧な検証を行うことが大切なのですが、マスコミでのセンセーショナルな報道もあいまって甲状腺がんの数だけが一人歩きする状態となっています。さらには「福島における甲状腺がんは多発である」という趣旨の論文が疫学分野の国際雑誌に発表されるなど、県民の不安解消にはまだまだ至っていないのが現状です。 事故から5年となる今年3月、Science誌上に「Epidemic of Fear(不安の伝播)」と題する記事が掲載されました。この記事では上述した福島における甲状腺がんを多発と断定した論文の波紋とそれに対する反論、さらには福島における不安に応えるための方策について、本学原爆後障害医療研究所の高村昇教授のインタビューも交えながら記載されています。この福島における具体的な方策について、長崎大学と福島医大から投稿された3篇の短報(Letter)が5月6日付のScience誌に掲載されました。具体的には、川内村における長崎大学・川内村復興推進拠点の活動に加え、福島県下における専門家と住民との対話の実施、そして福島県民健康調査の現状について両大学から紹介されています。世界の科学界をリードするScience誌がこれらの取り組みを紹介した意義はきわめて大きく、復興未だ途上にある福島に向けた力強いメッセージとなることが期待されます。